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日高敏隆先生がたずさわられた本 5


 「さんご礁の海から - 行動学者の海中実験」、1985年

         (思索社、1985.8.24 発行、283p)
            日本語版監修 日高敏隆
            訳者 山本泰司・中嶋康裕・福井康雄・石原将弘

ハンス・W・フリッケ著
(Hans W. Fricke)

“Bericht aus dem Riff”
1976


『本書は、海産魚の行動、生態学的研究に目ざましい活躍ぶりを示すハンス・フリッケの『さんご礁からの報告』(Bericht aus dem Riff)の全訳である。ローレンツ一門での、いわば兄弟子にあたるアイブル=アイベスフェルトが十二年先立って発表した『環礁の王国』(思索社)では、珍しい動物やその行動の発見物語が話の中心になっているのに対し、本書では、副題「ある行動学者の海中実験」にも見られるとおり、それぞれの動物の生活が詳しく掘り下げてしらべられている。アイブルの時代には、特殊技能だったダイビングがしだいに一般に普及し、フリッケの時代には、もうただ潜るだけなら何でもなくなっていたことの反映と言えるだろう。ダイビングが手軽に楽しめるようになるにつれ、海の動物にとりくむ研究者も加速度的に増加し続け、本書の原著発表後、著者の見解に訂正を求めるような事実が観察されたりもしている。また、日本語版序文にも少し触れられているように、この間に、動物の行動の適応的意義が「種族維持」にあるとする考え方から、「個体の利益(繁殖)のためのものとする考え方への理論的大転換が起こり、行動生態学と呼ばれる学問分科が興隆してきた。けれども、これらのハンディによって本書の魅力が損なわれてしまったわけではない。軽妙でしかも卓抜な実験を海中で次々と繰り広げるフリッケの研究スタイルは、ときには調査結果やその解釈以上に、プロセス自体が読み手をワクワクさせるのである。この点で彼は、飼育した動物の観察から哲学的考察を行なったローレンツよりもむしろ、野外での実験を得意としたティンバーゲンに近く、さしずめ本書が『好奇心の旺盛なナチュラリスト』(思索社)の海洋版にあたると見ることもできるだろう。 ........(略)
...原稿を思索社に紹介し、監修を引き受けていただいた日高敏隆氏にも感謝したい。... 』(「訳者あとがき」より引用)


今年、ハンス・フリッケ博士(70歳)は「シーラカンスの行動生態および生活史の解明」の研究によって、神戸市立須磨海浜水族園創設の第2回 神戸賞を受賞されました。(2012.5.24. Yo )



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